環境試験装置・産業用冷熱機器の内部に含まれる冷凍機およびチラーについて、前回の記事でご説明しました。
冷却の方法はさまざまですが、一般的には「冷凍サイクル」が使われています。冷凍サイクルを人間の体に例えると、心臓のような役割をしているのが「圧縮機」、体内をめぐる血液の役割をしているのが「冷媒」です。冷凍機は、冷媒が気体と液体の相変化を繰り返すときの熱エネルギーを利用して、対象を冷やしています。冷媒は冷凍機の配管の中を循環し、熱を運搬します。
今回は冷凍サイクルに必要不可欠な、フロンと冷媒についてまとめます。
代表的な冷媒とその性質
18世紀に冷凍技術の理論が発表されて以来、これまでに多くの冷凍機と冷媒が開発され、使用されてきました。
冷凍機は、設定温度18~28℃程度の空調から、-80~-150℃程度の超低温に至るまで、幅広く利用されています。冷凍機の用途や圧縮機の種類に合わせ、数多くの冷媒の中から最適な物を選択して使い分けることで、様々な温度帯が実現できるのです。冷媒の蒸発温度・圧力と凝縮温度・圧力をどのように設定するかが冷凍サイクルの基本になっています。
扱いやすい冷媒の条件として、
- 容易に液化し蒸発圧力は適度に高いこと
- 蒸発する時に周りから奪う熱量(蒸発潜熱)が大きいこと
- 化学的に安定していること
- 人体に無害であること
- 引火・爆発性がないこと
- 安価に入手できること
- 地球環境への配慮
…などの性質が挙げられます。これらの条件を全て満たす冷媒はまだ存在しません。
現在使われている代表的な冷媒としては、「フロン」「アンモニア」「二酸化炭素」「プロパン、イソブタンなどの炭化水素系」があります。水や空気も冷媒として使われることがあります。
冷媒名 (略称や化学式) |
性質 |
フロン |
1990年代頃まで大量に使用されていた。化学的に安定した人工物質で、ほとんど毒性がなく、不燃。 |
アンモニア |
冷却効率が高く、100年以上前から使われている。 吸収式冷凍機などに利用される。 毒性や刺激臭があり可燃性のため、取扱いが難しい。地球温暖化への影響は0。 |
二酸化炭素 |
毒性がなく不燃で、安価。高圧になるため、機器の耐圧性が求められる。 |
プロパン、イソブタン等 炭化水素系 CH |
冷却効率が良い。 日本国内の大半の家庭用冷蔵庫や、欧州のノンフロン型冷蔵庫に使われている。 強い可燃性を持ち爆発のおそれがあるため、安全対策が必須となる。 そのため、大型の機器には適さず、小さな冷熱機器にのみ使用されている。 |
水 H2O |
毒性がなく不燃で、安価。 冷却効率を高めるためには巨大な装置が必要となり、設備コストが高い。 |
空気 | 毒性がなく不燃で、安価。エネルギー効率、冷却効率は劣る。 |
グリーン冷媒 (ノンフロン) |
開発中。オレフィン化合物(HFO)などが主成分で、2030年頃までに商品化。 代表としてR1234yfが今後カーエアコンとして導入される方向。 |
大量に使用されてきたフロン
代表的な冷媒の中でも、特に多く使用されてきたのがフロンです。
フロンは冷媒や洗浄剤として人気が高く、冷暖房装置や冷凍機、カーエアコン、冷蔵庫などに使われます。精密部品の洗浄剤やスプレーの噴射剤などにも幅広く利用されてきました。オゾン層を破壊するCFC(クロロフルオロカーボン)とHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が特定フロンとして規制されたため、代替フロンの普及が進みました。
フロンについての詳細は、次回の記事をご確認ください。
現在は脱炭素化に向けた過渡期です。フロンに対する規制は年々厳しくなっており、各国のフロン生産・消費量は段階的に削減されることになりました。2016年にキガリ改正(モントリオール議定書の改正案)が採択されたことで、温暖化対策に重点が置かれるようになり、代替フロンHFC(ハイドロフルオロカーボン)も新たに規制対象とされました。これが、いわゆる「Fガス規制」です。
日本ではフロン排出抑制法(2015年施行、2020年改正)により、フロンの生産から廃棄処分までの厳重な管理が義務付けられています。
フロンに代わる新しい冷媒の研究が急務となっており、2030年頃までの実用化を目指して、地球温暖化への影響が少ない「グリーン冷媒」の開発が進められています。 弊社は今後、グリーン冷媒や再生可能エネルギーなどに関する新技術を取り入れながら、古い装置を直して使う方向で、お客様のニーズに答えていきたいと考えております。
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